『翻訳通信』第63号(2007年8月号)
山岡洋一「翻訳の理論のために」より
「既存の翻訳論はたいてい、文学か言語という観点から書かれている。それはそれでいいのだが、社会、歴史という観点が抜け落ちていることが多い」
「翻訳というものの出発点は、2つの共同体、言語を共通項とする共同体の接触である。…(中略)…そのとき、2つの共同体がどのような関係を結ぶかによって、翻訳が発生する場合もあるし、発生しない場合もある」
「翻訳を行うのは、学んだ内容を同じ言語を使う共同体に伝えるときである。だから、翻訳はいつでもどこでも社会的な現象なのだ。何をどのように翻訳するのかは、2つの共同体の関係によって変わる。そして、翻訳は2つの共同体の関係に影響を与える」
「現実に翻訳されている量を考えれば、小説などのフィクションの分野はたぶん、10%にも満たない。はるかに重要なのが、論理を扱う分野だ。自然科学や技術、社会科学などの分野は翻訳量がはるかに多い」
「これらの分野の翻訳も視野に入れて翻訳論を組み立てていくのであれば、社会的な要因、歴史的な要因を考える機会も多くなるように思える。それに、言語を共通項とする共同体が他の共同体に出会い、学ぼうとするとき、主戦場になるのは、文学ではなく、論理の世界のはずである」
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翻訳という行為が、何のために、いつ、行われているのか。
これまで以上に、気づかずにいた視点を考えさせられました