タイトルの「かます」は、魚のカマスでも藁の物入れでも「ぼけをかます」のでもありません。
炊き上がったご飯をしゃもじで さっくり 切り返す、あの動作のことなんです。 「かきまぜる」ようなぐるぐるぐちゃぐちゃした動きではなくて、ほっかほかのご飯の蒸気を上手に通気させてふっくらつやつやにする、あの動作。
すいません、これ、わたしの実家のほうの方言です(岩手内陸部)。
この「かます」動作は中国語で何というのでしょうか。
『講談社日中辞典』付録CD-ROMの全文検索機能を駆使して調べてみます。
【焖】
◆炊き立てのご飯はお米が立っている/刚焖好的米饭,米粒亮晶晶的。
【蒸】
◆ご飯がやわらかく蒸れた/饭蒸软了。
【煮】
◆ご飯がおいしく炊き上がった/香喷喷的米饭煮好了。
ふむ。なるほど。でも「かます」動作が分かりません。
具体的動作に迫るために、Google検索を駆使して料理レシピを参考にします。
あ、お米の炊き方のレシピがありました!
◆煮好后需再焖15分钟,打开锅盖后,用饭匙由下往上轻轻拌匀即可。
◆饭煮好后继续保温约10~15分钟再将锅盖打开,并用饭匙将煮好的饭翻搅均匀,就是香喷喷的白饭了。
あ、寿司飯のレシピがありました!
◆煮好后冷却2O分钟,加入寿司醋400 ml,搅拌均匀后即成寿司饭。
◆饭熟后,立刻倒入寿司饭醋料,一手用木饭匙搞匀,另一手用扇拨凉寿司饭。
◆
Step1 :当饭刚煮好时,立即打开饭盖快手加醋,再盖回饭盖焗一焗,待饭粒完全吸收醋香。
Step2 :然后打开盖,用木制饭匙把饭打松,待凉。
なるほど、
“由下往上轻轻拌匀”上下にそっと混ぜてならす
“将煮好的饭翻搅均匀”炊けたご飯を混ぜてならす
“搅拌均匀”かき混ぜてならす
“搞匀”ならす
“把饭打松”ご飯をほぐす
という用例が分かりました!
“由下往上轻轻拌匀”などはあの動作がよく表されていますね。“轻轻拌匀 qīngqing bànyún”、軽い感じで納得です。
しかし、ぴたっとくる動詞が決まっているわけではないのですねえ。
あれ?そういえば「かます」って、日本語では普通はなんと言うのでしょうか。標準語でどう表現したらいいのか、わたし知りませんでした。
そこで身近な日本人の友達にリサーチしてみました。
「ほぐす」「切るようにほぐす」鳥取県出身のDさん
「蒸らす」「混ぜる」埼玉県出身のKさん
「蒸す」京都府出身のOさん
「空気を入れる」静岡県出身のIさん(←私の祖母。94歳)
みんな「うーん」と首をひねってから答えてくれます。うーん。
そこで栃木県出身のOさんのご友人から
「シャリ切り」
という言葉が。ああ、そうでしたね!寿司飯をうちわで扇ぎながら寿司酢をかけて均等に混ざるようにすること、シャリ切りと言いますね。しゃもじを持っている手の動作は「かます」と一緒だ!
ただ「シャリ切り」と言ってしまうと、寿司飯づくりの工程の一つとして、寿司酢を混ぜることも言葉の意味に含まれているみたいです。
寿司酢を混ぜないで純粋にかまして欲しいとき、いったい何と言って人にお願いすればいいのだろう???
疑問は解けないまま五月の青い空に吸い込まれていきます……。