学生:
「先生、あいまい母音の“e”の出し方がよく分かりません」
井田:
「あら、そうですか。どうぞ何でもお尋ねください」
学生:
「最初の先生からは、ノドの奥から出す音だ、って習いました」
井田:
「えーっと、声は声帯が振動して出てくる音なので、どの発音もノドの奥から出しますよ。“e”に限った話ではありません」
学生:
「○○先生の本には、ノドをふるわせる、って書いてありました」
小桜:
「うーん、ノドでふるえているのは声帯なので、やっぱりどの発音もノドをふるわせますよ。“e”に限った話ではありません」
学生:
「前に習った教室では、ノドを緊張させる、って教わりましたが…」
井田:
「あー、それはですね。
“e”の発音が正しくできたら、喉頭ぜんたいが持ち上げられるので、たしかに緊張するとは言えます。
けれど、緊張させれば“e”の音が出るかというと、そうではありません。
AをすればBが起こるけれど、BをすればAが起こるってわけではないんですよ」
学生:
「こっちの本では、首筋に力を入れる、って書いてありますが、どのスジでしょうか?」
井田:
「あっはっは、いっぱいありますもんね、スジ。
“かきくけこ”で動くのと同じスジですよ。
でも、そこに力を入れたからといって、“e”の発音ができるわけではありません。
“e”の発音をしてみたら、そういえばこのスジが動くけれど、そのスジを緊張させれば“e”の音が出せるってわけではないんですよ、やっぱり」
学生:
「ではどうしたら…。e、e、e…?」
――そんなにりきんで発音していたら、子音をつけたり単語や文になったりしたときに忙しくて大変ですね。思ったとおりのタイミングで発声ができないかもしれませんよ。
母音は、肺から出てきた気流が声帯を通って、口腔内で妨げられることなく外に出ていくことで発音されます。
その間に気流が通るルートのことを声道といいます。
舌の位置と唇の形がどうなっているかによって声道は異なる形をとり、それによって気流は異なる音色の声となって出て行きます。
母音はそういうしくみで生まれます。
逆に言うと、舌の位置と唇の形以外の要素は、母音の音色を決める役割を持っていません。
あるネイティブの友人は、自分があくびをしたときに出るのは“e”の声だ、と教えてくれました。
“e”の発音は、あくびやため息のようにノドを思い切り開放して、リラックスしたときにでも出せる音です。
力を入れたり緊張させたり、難しいことをしなくても大丈夫。
具体的には、“o”を発音しながら、唇の横幅をそのままに、下あごを閉じていきます。
タテの長さが三分の二になったら、それでおしまい。
いま出ている音が単母音“e”です。
井田:「よく、あいまい母音なんて呼ばれますけれど、ちっともあいまいではないんですよ。ちゃんと、この範囲の音なら“e”、って聞き取ってもらえる範囲があるんですよ」
学生:
「分かりました。コツを教えてください!
今日のレッスンでは、“e”の点検をじっくりお願いします!」
井田:
「はいはい。もちろんですよ。
音節の後半で、すこーしほどける感じが出せたら、いっそう中国語らしくなりますよ。
“e”の使われている単語ばかり集めたオリジナル単語帳がありますから、ばりばり特訓しましょう!」