「たくさん勉強したのに、あと一歩なにかが足りない」の原因
「発音の本をこれまでに何冊も読んだのですが…」
「語学学校で発音講座に出てみたのですが…」
「通訳スクールで発音講習を特別に開いてもらったのですが…」
発音矯正レッスンを受ける方は、皆さん色々な学習歴をお持ちです。
発音クラスにも出ました。発音の本も読みました。でも……
「でも」の後には、
読んだ説明のとおりにやってみたのに…
先生が言っていた説明のとおりにやってみたのに…
なんだかしっくりこないんです…
どうもすっきりしないんです…
自分の発音がよくなった気がしないんです…
そんな声が続きます。
これは、無理からぬことだと思います。
けっして、個々の学習書がよくないとか、個々の発音講座・発音講習がよくないとか、そういった問題ではないのです。
発音に限ったことではないと思いますが、説明の方法というのは、受講者さんの学習歴やステージ、受講生さんがたった今なにに困っているか、などによって、最適な進め方が異なります。
発音矯正であれば、どのようなクセがあって、その原因が何かということによって、その時その時に必要な説明が異なります。
どういう体系でどういう順番で伝えるか、それはその時のその人にとってのピンポイントな正解があると思っています。
本に書かれている解説
一冊の本として総合的にまとめようとする場合は、誰か一人、典型的な初学者さんを読者として想定し、ゼロから学ぶ人のための説明を書かなければなりません。
市販されている発音の学習書も、ほとんどがそうした編集方針で書かれています。
「初めて中国語に触れる読者が、初歩の初歩から中国語を学ぶ入り口として、発音の本を使って練習するケース」を想定して書かれた本、が出来上がるわけです。
その想定のもとでならば、たいていどの本でも、必要十分で最適な説明が展開されています。
1ページ目から順々に読んで、書かれていることを素直に実践した人なら素直に吸収しやすいでしょう。
ところが、ある程度中国語を学んで、自分の発音を修正したいと思った学習者が読んだときに、ピンポイントな疑問に対する答えが得られるかというと、なかなかそうはいきません。
特に、
「○○の発音が分からないから、Aの本とBの本を読み比べてみよう」
という読み方をすると、とたんに
「えっ?? Aの本とBの本で書いてあることが違う!?」
と混乱してしまうことがあります。
それぞれの本が、独自の対象読者設定に基づき、独自の体系と独自の順番で書かれているので、もともとつまみ食いには向いていないのです。
ある一冊の本の中で、前後の説明を読み比べたら理解できることがあるとしましょう。
たとえば母音や子音で既出項目と比較する説明や、口形の作り方や呼気の強さなど程度を表現する語り口などです。
それを、その項目だけ抜き出して別な本と読み比べてみようとしても、前提条件も語り口も異なるため、比較のしようがないのです。
スクールで聞いた講師の解説
スクールで発音のクラスレッスンに出る場合、いちばん危険なのはほかの人が受けた指摘、ほかの人の質問への講師の答えを丸呑みにして自分に当てはめることです。
中国語の普通話を学ぶなら、モデルとなる規範的な発音は一定です。
話者による違いがあるとはいっても、狭い範囲の中での微々たる違いです。
ところが、発音矯正をしたい人の方は、
・発音のクセの現象も、
・そのクセが出る理由も、
・そのクセが出る原因となった思い込みも、
人によって千差万別です。
となると、目指すモデルの発音は同じでも、矯正のためには人によって異なる方法が必要になるわけです。
個人のクセを改めるための意識付けの言葉も異なります。
たとえば第2声を苦手としている方には、二つのタイプがあります。
第2声を重く第3声のように発音してしまうタイプと、第2声を高く第1声のように発音してしまうタイプです。
前者のタイプの方には「第2声は第1声の装飾音のように軽く」と意識付けをしてもらいます。
後者のタイプの方には「第2声は第3声とおなじ低さからしっかり上げる」と意識付けをしてもらいます。
規範的な普通話の第2声として、目指すモデル音声は同じなのですが、バックグラウンドが違う場合には、講師からのアドバイスもここまで変わるのです。
もしグループレッスンで前者のタイプの方に対するアドバイスを耳にして、それを後者の方が取り入れようと一生懸命に練習したら、ますます重く第3声と第2声の区別のない発音になってしまうでしょう。
発音の修正方法については、あなた個人についてピンポイントで出してもらったアドバイスを取り入れるのでなければ、回り道をしてしまうことになります。
そう考えると、中級者・上級者のグループレッスンで発音を教える先生にはすごい負荷がかかっているだろうなあと思います。
講師だってマンツーマンがやりやすい
書籍をまとめるのも、クラスレッスンで発音を教えるのも、いずれも相当たいへんなことだと思います。
わたしは発音矯正には自信を持っていますが、発音の本を書きましょう、発音矯正のグループレッスンを開講しましょう、と言われたら、本気で尻込みすると思います。
ゼロから学ぶ方向けの発音入門のレッスンなら、クラスレッスンでも大丈夫です。企業研修や語学学校の授業で検証済みです。
こと発音の矯正に関して言うならば、悩みをヒヤリングして相談に応じることなく、不特定多数の人を対象に説明することは不可能です。
あえて不特定多数の方に向けて発信するとすれば、音声学の基礎をお伝えすることは有効だろうと思います。
これは当ラボの発音矯正レッスンでも必要に応じて取り入れていますが、なにも講師と対面で学ばなくても座学で十分な内容なので、前提知識として文字テキストか動画テキストで受講生さんに知っておいてもらえるようにする予定です。
そうして講師のわたしと共通の認識を得た上で、マンツーマン発音矯正を行うというのが、最も効率のよい、成果の上がりやすいレッスン形態だという感触を持っています。
マンツーマンであれば、総合的な発音チェックによってお一人お一人の弱点を洗い出し、これまでの学習歴や今後の目標に応じて、ゴールを設定し、その人にぴったりなカリキュラムとトレーニングを組むことができます。不要なトレーニングはしません。
そうして確実な効果が出たほうが、教える講師の方だって嬉しいですし、受講生さんだって嬉しいに決まっていると思うのですよ。
まとめ
本やグループレッスンの説明ですっきりしないのは:
――本は、総合的・全体的記述をする必要があり、著者ごとに語り口が違うから。
――グループレッスンは、自分とは誤り方が違う人へのアドバイスを聞くことになるから。
――本もグループレッスンも、あなたの弱点を引き出してくれないから。
効果的な発音矯正に必要なことは:
――あなたの学習歴や目標を前提に、正確な発音チェックを行う。
――必要な項目について的確な説明を受け、適切なトレーニングだけを行う。
ぜひ、いい先生を見つけて、寄り道・道草・遠回りをせず、発音で苦労をしない中国語ライフを手に入れてください!