日本語ネイティブのみなさん。
「さ、し、す、せ、そ」のなかで、一つだけ仲間はずれなのは、どれでしょう?
突然のなぞなぞですが、これ、とんちで答える問題ではありません。
じっさいに、仲間はずれの発音があるんです。
答えは、「し」です。
「し」は、発音の方法で分類するなら「さ、す、せ、そ」の仲間ではなく、「しゃ、しゅ、しぇ、しょ」の仲間なのです。
いうなれば、「サ行」というより「シャ行」のグループ。
「さ、す、せ、そ」は、舌の先端を上の前歯のつけ根から歯ぐきあたりに近づけて音を出す発音。
「し」だけは、舌の先端を下の前歯のつけ根から歯ぐきあたりに押し付け、舌の中央部をぐいっと盛り上げ上あご(の硬口蓋)にくっつきそうなくらい近づけて出す発音。
専門用語だと、「サ行」の「さ、し、す、せ、そ」の中で、「し」だけが「口蓋化」しているといいます。
口蓋化しない音で「サ行」の5段を揃えるとすれば、「さ、すぃ、す、せ、そ」になるんです。
五十音表の「イ段」で口蓋化する発音は「い」以外の全部です。
つまり「き、し、ち、に、ひ、み、り」、濁音・半濁音も入れると「ぎ、じ、ぢ、び、ぴ」、これらはすべて、後ろに拗音がつく音の仲間。小さい「ゃ、ゅ、ょ」が付く音と舌のポジションが同じなんです。
き、 し、 ち、 に、 ひ、 み、 り
↑ 仲間 ♪ ↑
きゃ、しゃ、ちゃ、にゃ、ひゃ、みゃ、りゃ
ぎ、 じ、 ぢ、 び、 ぴ
↑ 仲間 ♪ ↑
ぎゃ、じゃ、ぢゃ、びゃ、ぴゃ
◆
で、ですね。
中国語ブログでいっしょうけんめい日本語のことを解説しているのはなぜかと申しますと、これ結構だいじな豆知識なんです。
「中国語の “xi” は日本語の『し』と同じですよ」
という説明、これ、正しいんです。
正しいんです、が、日本語の「し」の発音にクセのある場合はたいへんです。
ワタクシ井田の場合は、「イ段」のすべてに側音化構音という発音のクセがあり、日本語の「し」がちゃんと発音できませんでした。
また、本人は「し」を発音しているつもりでも、口蓋化しない「すぃ」の音、英語でSea(海)という時の音を出している人も結構います。
なので、私は
「中国語の “xi” は日本語の『しゃ、し、しゅ、しぇ、しょ』の『し』と同じですよ」
なんて説明したりします。
「子音の “x” は『しゃ、しゅ、しょ』の子音とおなじで、それに母音の “i” が続きます」
とか。
j, q, x
↑ 仲間 ♪
じ、 ち、 し
↑ 仲間 ♪
じゃ、ちゃ、しゃ
中国語の “j, q, x” は調音点(発音するときの場所)が “舌面前音”(舌面音)というグループで、舌のポジションは、口蓋化音の舌のポジションと同じです。
また、この子音グループの後ろに続けていい母音は “i” と “ü” だけ。
この “i” と “ü” のポジションも口蓋化音と同じ。
日本語で言うと岩手の「い」、印鑑の「い」ではよろしくないわけで、
zebra(シマウマ)の「ズィ」やツィゴイネルワイゼンの「ツィ」やsightseeing(観光)の「スィ」ではなく、
神社の「じ」、千葉の「ち」、島根の「し」のときに現れる、口蓋化した「い」でなければなりません。
◆
こちらの記事(→〔動画付き〕結構あなどれない発音 “ i ” と “ ü ”の共通点とは?〔中国語〕)で単母音の “i” が「ア行」の「い」になってしまう問題について書きました。
今回話題にした「シャ行」の「し」、口蓋化した「い」の感覚が分かるようになると、この問題も改善できます。
今回のテーマは、単母音 “i” の日本語母語干渉対策への別方向からのアプローチでもありました。