以前からちょっと不思議に思いつつ、そんなもんかな、と思っていたことがあります。
日本人講師が執筆した中国語のテキストで、中国語の音声はたいてい中国語ネイティブの方の発音が使われていることです。
とても珍しい例として、青木隆浩先生の『基礎から学ぶ 中国語発音レッスン』、原田夏季先生の『夏季老師の中国語用の口を手に入れる発音教室』(部分)があります。
拙著『りんず式中国語発音矯正』も、長文素材の朗読はネイティブさんにお願いしましたが、それ以外はわたし自身が発音しています。まあ、わたしの場合は私家版なので費用の面で節約したという理由もなきにしも(ごにょごにょ)
まあなんとなく、出版物のお手本音声はやはりネイティブさんの録音がベスト、という先入観があったわけなんです。
ところが。
ある受講生さんからいただいたリクエストで、わたしははたと膝を打ったのです。
「先生あなたのお声で聞きたいんです」と言われて
音読学習を始めたばかりの受講生さんでした。
多くの学習者さんに評判のテキストをお持ちでしたが、付属の音声のスピードが早くて、素晴らしい中国語なのはわかるが、自分はついていけない、と封印していたそうです。
たまたまわたしがそのテキストをお勧めし、音読練習の進め方の見本として「区切った読み方」「つなげた読み方」「ナチュラルな読み方」という3種類の音読方法でモデル音声を録音して、お渡ししました。
すると、日本人講師のわたしによる音声を、その受講生さんがことのほか喜んでくださったんです。
ネイティブの先生の音声もいいのだけれど、 ネイティブさんは発音がよくて当たり前、 プロのナレーターさんは読み方も上手で当たり前。 自分は真似できない。 その点、日本語母語話者の先生の音声なら、日本人でもここまでできる、という目標になる。 そしてこのように区切って段階的にレベルを上げていく方法は自分にとても合っています。
と。
そして、
わたしは井田先生のお声の中国語が大好きです。 もしこのテキストを全て井田先生が録音してくださったらいいのになあと思います。 このテキストでなくても、そういったテキストを作ってくださったら必ず買います。
と力強いラブコール。
嬉しいですねえ。
以前から、日本人講師から中国語の発音を教わるメリットを力説してきたわたしですが、日本人講師のモデル音声による音読練習、これは盲点だったんです。
たしかに、わたしが開催している音読サークルのイベントや、twitterなどで多くの学習者さんがご自分の音読をアップしている音声を聞くことなどで、日本人学習者の発音を互いに聞くことに大きなメリットがあるということは感じていました。
学習者の発音を聞いて役に立つことがあるなら、日本人講師の発音を聞いて役に立つことだってあるはずなんですよね。
日本人の話す中国語を手本にして日本一になった人
ここで、学習者の間では有名な日本人学習者さんをご紹介しましょう。
愛称を「麻辣烫」とおっしゃる方です。
まあなんというか、むちゃくちゃ中国語が上手で、ちょっと北京味儿の発音で、声調に間違いがなくて、スピードが早くて、という方。
その話している様子はこちらの動画をご覧ください。
発音が上手くなる秘訣を語ってくれてます。
中国人よりも発音が綺麗な日本人!わずか2年で完璧な発音になる秘訣は?
(ヤンチャンCH/楊小溪)
動画を見ている暇がないよ、という方は、こちらのエッセイ記事を読むのもよいと思います。
さらっと語っておられますが、たくさん努力を重ねていることがわかります。
努力といっても、楽しいと思うからこそ続くのだと思いますが。
【中国語学習】中国語力0から3年間で日本1位になった私が実践した9か条(前編)
(note|中国ドキュメンタリー制作会社・和之夢)
【中国語学習】中国語力0から3年間で日本1位になった私が実践した9か条(後編)
(note|中国ドキュメンタリー制作会社・和之夢)
ここで、わたしが注目しているのが、麻辣烫さんが動画を100回以上見て参考にしているのが、日本人が話す中国語だということなんです。
上手くなるためには、自分にとっての中国語の偶像(アイドル)が必要だ、とおっしゃっています。
日本人が話す中国語は、あまり複雑ではなく、シンプルで、時には文法の間違いや発音の巧拙もいろいろある。でもだからこそ、日本人が目指すゴールはどんなものなのかが見えやすいのですね。
そんな不完全な中国語をお手本にしていいのか、というと、それは麻辣烫さんが素晴らしい中国語の使い手になっていることを見ても杞憂に過ぎないことがわかります。
大事なのは本人の努力なので。
そういえばわたしにも目指すモデルがあった
発音指導の延長で、音読サークルを始め、音読・朗読というものに初めて取り組んだ時、わたしのまえには大きな壁が立ちはだかりました。
何をどう読んだらいいのかわからない。
どういう声で、どういうテンションで読んだらいいのかわからない。
そんなとき、わたしが手本にしたのは日本人の畏友二人の音読でした。
男性は岡本悠馬さん。女性は内藤樹里さん。
そのころ、音読を公開している人はほとんどいなかったので、このお二人は先駆者です。
そののち、多くの方が音読を公開するようになって、ご承知のように今の百花繚乱の贅沢な時代になりました。
わたしはまだまだ岡本さんや内藤さんに追いつけませんが、このお二人の音読のおかげで、非ネイティブの自分がどんなふうに中国語に取り組んだらいいかということがわかったような気がしています。
例えるなら、カラオケで上手に歌いたい時、プロの歌手の歌はかえって参考にならないけれど、歌の上手な友達のカラオケがすごく参考になる、というような感じ。
ですので、冒頭の受講生さんからのリクエストは、たしかに需要のあることだな、と腑に落ちたのです。
わたしが次に取り組むのは、このプロジェクトになるかもしれません。