1. 翻訳家めざして

翻訳小説はとっつきにくい?

東山彰良さんの『流』に文庫版が出たので、夏の帰省の移動時間に再読しました。

ご存知の通り、台湾生まれ日本育ちの作家による、台湾を舞台にしたエンターテイメント小説で、
2016年本屋大賞ノミネート、2015年の第153回直木賞受賞。
めっぽう面白い作品です。

日本語で書かれているのですが、出てくる人物がほぼ全員台湾人。
舞台もほぼ台北と中国。
人物名には中国語をカナ表記にしたルビが付いていて、まるで翻訳小説みたいです。

文庫版解説を作家のロバート・ハリスさんがお書きになっていますが、この方もこの作品に引き込まれて、絶賛なさっています。
が、出版翻訳を志す私の目が留まったのはこの一文。

はっきり言って物語に入っていくまでにちょっと時間がかかった。中国語の名前がすんなりと入ってこないのだ。主人公の葉秋生(イエチョウシェン)の名前を再確認するために何回登場人物表を見たことか。主人公でこれだから、他の登場人物にはもっと手を焼いた。

うーん。なるほど。
これって、中国語の原書を翻訳したときにも発生しうる障壁ですね。

中国語の分かる私は、人物名を見ても頭の中に中国語発音が響きますから、ルビがあってもなくてもどうということはありません。
また、漢字だらけの人名も見慣れているから、巻頭の登場人物一覧表を参照することもありませんでした。
作品世界を堪能するのに障壁は何もなかったんです。

原書を翻訳して紹介するときには、そこの障壁をいかに低くするか、って意識を持っておいたほうがよさそうですね。

私は将来、エンターテインメント分野の中国語小説を翻訳して日本に紹介したいという野望を持っています。
実は、その理想的モデルとして、この『流』がいつも頭にあります。
中国や台湾や、中国語圏について特に興味を持っていなかった読者が、たまたま手にとって
「これ面白い!」
という口コミで作品が広がっていく。
エンターテインメントとして作品を楽しんでいるうちに、いつしかその舞台やそこに住む人に親近感を覚える。
そんな翻訳活動をするのが私の夢なんです。

『流』、私の野望を忘れず、勇気を鼓舞するお守りです。

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